ポール・ボウルズ追悼
トーキングヘッズ叢書No.9でも特集しましたポール・ボウルズが1999年11月18日、
モロッコはタンジールでお亡くなりになりました。心臓発作だとのこと。ご冥福をお祈りします。
トーキングヘッズ叢書No.9『ボウルズは忘れるがままにせよ』はそのタイトル通り
無と孤独の海の中にボウルズを忘れ去ろうとするものでした。
西欧文化の辺境であり、背後に地平線の彼方にまで続く砂漠をひかえたモロッコは、
まさに人を忘却の彼方へ連れだしてくれそうな風景を持ち合わせています。
傑作「シェルタリング・スカイ」のストーリーを引き合いに出すまでもなく
世界律の違う別世界に引きずりこまんとするブラックホールがそこに潜んでいるのです。
おそらくボウルズは、その渦巻くエネルギーの底で息を引き取ったのでしょう。
ボウルズの思い出のために、『ボウルズは忘れるがままにせよ』から、一編の詩を掲載します。
秘め言
訳=山形浩生
きみの顔の奥深くに夜を見た
夜の中に星を見た
その星がきみの目となり
ぼくの秘め言を待つ
でもそれは決してあり得ない
夜がきみの心を封じたから
遥か昔にぼくたちがさまよったかもしれない
土地の歌を歌おう
大地が若かった日々の歌を歌おう
ぼくたちの決して知ることのない日々の歌を。
夜の中に海を聞き
海には風を聞き
その風がきみの声となり
ぼくの秘め言を懇願する
でもそれは決してありえない
闇がきみの心を封じたから
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